去年だったかおととしだったかもう忘れたが、ランカスターというところに行った。アーミッシュの人たちが住んでいる所だ。この人たちは独特の教義にのっとって電気や車を使わず、テレビもみず、ネットもやらず、アーミッシュ以外の世界との交流をあまりしないようにして生活している。ランカスターではこの人たちの移動手段である馬車がそこらじゅうに走っており、独特の服装をしたアーミッシュの人たちをよくみかけた。外から見ただけではわかるわけないが、のどかな感じで幸せそうだった。博物館の人の説明によると人口はどんどん増えているらしく、アーミッシュの社会はかなりうまく行っているらしい。そのランカスターのアーミッシュの学校で乱射事件が起こった。女の子ばかり5人の子供が殺された。アメリカで、これを含めて一週間以内に3件学校関連の銃にまつわる殺人事件があったらしい。ランカスターの一件はとりわけ世の中の関心が強く、連日報道されている。犯人はランカスターに住む牛乳配達の男。30代、妻子持ち。子供たちを学校に監禁した後、妻に電話をかけ、なぜこのようなことをしたのかを語ったという。いわく、20年ほど前に親戚の女の子に性的いたずらをしたことがあり、そのことが忘れられず、夢にまで出てくる。どうしてももう一度やりたかった、のだそうだ。最初聞き違いかと思ったが、別にこの男が虐待を受けたわけではない。あと、最近妻が流産したことがショックで、世の中がいやになり、神を呪ったのだそうだ。そんな理由で機関銃で武装し、鎖や釘、それにKYjellyというlubricantまで準備して、学校に押し入り、女の子だけを教室に残してバリケードをつくり、女の子たちを縛った後、銃を乱射して5人を殺して自殺。他にも複数、現在病院で危篤状態の子がいるらしい。犯人の妻は教会の活動でリーダー的な役割をしており、夫の犯罪についてまったくの寝耳に水といったコメントをしている。この男の親類の誰もがそんなことをするような人間ではないのにと驚いているようで、悪魔に取り付かれたという説明が一番しっくりくるような行動である。こういう狂気の犯罪はどんなに科学が発達したって理屈で説明するのは無理なんだろうと思う。アーミッシュの村では、これも神の思し召しだという受け取り方がなされているようで、犯人を許そうというのがアーミッシュとしての立場らしい。女の子が性的な辱めを受けずにすんだのは神様が勝ったのだ、むしろきれいな体で殺されたほうが幸いだったのだ、という内部の人のコメントを読んだ。思わずうなった。アーミッシュの共同体にはこうした悲劇が生じたときの相互扶助や精神的なサポートのシステムがしっかりとあるそうである。伝わってくる話を聞くと、時代に逆行した生活をしているようにみえて、実は叡智に富んだ共同体のようである。このアメリカにあって。博物館で聞いた説明を今思い出したが、たしかアーミッシュの村では一世帯あたり平均で7人くらい子供がいると言っていた。避妊も中絶もできないから。これも叡智のうちなのかな。7人も子供がいたら、一人死んだときのダメージは比較的少なくてすむのではないか。そんなことはないか。ほんとうにおぞましい事件だが、いろいろと考えさせられる。もちろん自分の娘がこんな目にあわされたらどんなにつらいだろうとかも考える。アメリカにいる以上、起こりうる事態なのかもしれない。でも防ぎようがない。
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