ハッカビーズ スペシャル・エディション [DVD]

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この映画は難しかった。いつもながら英語の問題もあるのだが、もともと難しい映画なんだろう。環境保護のためにスーパーの進出を阻止する活動に取り組む主人公と、大規模量販店のかっこいい幹部社員、その恋人の会社のイメージキャラクターの美人モデル、クライアントの「実存」を探る探偵、石油を使うことを拒否する消防士、フランス(?)からやってきた哲学者、ソマリアの内戦で親を失いアメリカに養子としてやってきた青年、などなどいろんな人が出てくる。主人公は、かっこいい幹部社員にひどい目にあわされてとても悔しい思いをする。実存探偵に彼もあなたも実は世界の一部であり一つなのです、などと鈴木大拙みたいなことを言われる。映画の後半、アメリカの成功者として世渡り上手でかっこよく美人の恋人もいてうまくやってるようにみえる幹部社員に、実は大きく欠落しているものがあるということが描かれる。それで、主人公は周りにちょっと理解されて終わる。そんな話だったか。Virginia techの乱射学生が反感を持っていた「アメリカの富裕層」ってたぶんこの幹部社員みたいな感じなんだと思う。その気持ちはなんとなくわかる。この社員が、芸能人との間で生じたおもしろエピソードを語るシーンがある。後に実存探偵によって、彼がまったく同じ話を一言一句変えずに何回も繰り返し披露していたことが暴かれる。僕もアメリカで同じようなことを目撃したことがある。なぜかいやな気分になった。しかし大なり小なり世の中で多くの人と円滑にコミュニケーションをとるには、この類のレディーメイド化が必要なのである。みんな忙しいから、その場その場でいちいち言うことをゼロから作り上げていたら時間がなくなるしコミュニケーションが成り立たない。話が通じるということ自体、お互いの公約数があるから成り立つわけだし。一方、主人公が実存探偵に依頼した内容は、オレ、同じアフリカ人に偶然3回も違う場面で出くわしたんだけど、何か意味があるのかどうか探って欲しい、ということ。そんなことに意味があるわけない。でも気になる。自分の人生が何か特別なものだと思いたいという気持ちの表れだろう。幹部社員と実に対照的である。でも、幹部社員もまた自分の実存には無関心ではいられないということが描かれる。大なり小なり、一人の人間に両方の要素があるはずである。アメリカ人だってそうだろう。難しい映画なのだが、部分的に、僕なりになんとなく映画でいいたかったことはわかるような気がする。この現代を舞台に実存をテーマに映画をつくるという心意気はすばらしいと思う。