この3ヶ月、あまり映画を見る気がしなかった。この映画、Netflixのサイトでずいぶんと評判がいいので、内容を確かめもせずに借りた。Deadmanとともに、3ヶ月も借りっぱなしだった。紹介文をみると、記憶の話である。最近記憶についてちょっとまとめたいと思っているのでちょうどよいと思い、昨日見てみた。ものすごくいい映画だった。

もし、特定の人についての記憶を消すことができたらこんなこともおこる、という映画。リアリティーはけっこうある。他人の手でここまで選択的に記憶を消すことは無理だけど、自分についての記憶を失う患者さんはたくさんいるわけで、昔の恋人にこの人誰?という状況は実際にあるはずの話である。主役とその彼女が一度深い仲となり、関係が悪化して別れた後、それを忘れ去ったあとにもう一度出会うという話なのだが、それ自体面白いし、記憶を消した後も心の奥底では何となく覚えているらしいという設定も現実の脳に即しており秀逸。また、本人たちが思い出せない記憶を映画みている人が知ってるというのも面白い感覚。

あと、けしてハッピーエンドじゃない。この二人、お互いのことについて忘れているわけだから、過去の教訓を生かして再出発ということではない。だからおそらく同じことの繰り返しになって、また関係は悪化して別れることになるわけである。それを暗示するエピソードもあり、そう考えると絶望的な話でもある。

半分以上、主役の人が記憶を消されている間に見ている夢の場面である。その設定のおかげで、脈絡なしで自由にエピソードを展開できる。普通、許される手法じゃないだろう。マルコビッチの穴と同じ人が脚本書いたのだという。テイストはかなり似ているが、僕はマルコビッチのほうは正直よくわからなかった。こっちのほうがずっと面白い。

またものすごくきれいな映画で、出てくる俳優さんも皆さん本当にすばらしい。これまで見た中で一番好きな部類に入る映画。大好き。
しかし日本盤のこの装丁はもう少し映画の雰囲気に合ったものにならないだろうか。これじゃ、「軽快なラブコメディー」みたいな感じじゃないか。